ワイヤレスマイクを選ぶ際、多くの人が「メーカー」や「価格」に注目します。しかし、現場での安定性を決定づける最大の要素は、「周波数帯」の選択です。
ワイヤレスマイクは「音響機材」であると同時に「無線設備」でもあります。そのため、使用できる周波数や出力は電波法によって厳格に規定されています。
さらに、近年は以下の制度変更がありました。
- 電波法改正による700MHz帯再編(携帯電話への転用)
- 新スプリアス規格の施行
法律や制度を十分に理解しないまま運用すると、違法使用や重大な混信事故の原因につながります。
本記事では、現在主流の周波数帯についての法律・制度を整理した上で、電波の干渉による混信リスクを考慮したワイヤレスマイクの選び方を、実務レベルで解説します。
1. ワイヤレスマイクの仕組み
ワイヤレスマイクは以下の構造で動作します。
この「無線伝送」の部分で使われる「周波数帯」が、通信の安定性に影響します。
2. ワイヤレスマイクに関係する用語解説
本題に入る前に、ワイヤレスマイクを運用するにあたって理解しておきたい用語について解説します。なお、ラジオマイクとはワイヤレスマイクのことを指します。
2-1. 特定ラジオマイク
無線局の免許を必要とするワイヤレスマイクのことです。
電波法に基づく総務省令『無線設備規則』第49条の16と16の2によって、規定されています。
第四十九条の十六
特定ラジオマイク(470MHzを超え714MHz以下又は1,240MHzを超え1,260MHz以下の周波数の電波を使用するラジオマイク(次条に規定するデジタル特定ラジオマイクを除く。)をいう。)
第四十九条の十六の二
デジタル特定ラジオマイク(470MHzを超え714MHz以下又は1,240MHzを超え1,260MHz以下の周波数の電波を使用するラジオマイクであつて、デジタル方式のものをいう。)
また、通信方式などの技術的な適合条件も、各号において詳細に規定されています。

特定ラジオマイクに属する周波数帯域は、実務上、次の3区分に整理されます。
- TVホワイトスペース帯(WS帯)・・・470〜710MHz
- 特定ラジオマイク専用帯・・・710〜714MHz
- 1.2GHz帯・・・1,240〜1,260MHz(1252〜1253MHzを除く)
運用にあたっては、特定ラジオマイク運用調整機構(略称:特ラ機構)への加盟と事前の運用調整が必須です。
特ラ機構への入会後、総務省への陸上移動局免許の申請から免許状交付までは約1か月程度かかります。機器を購入してすぐに使える訳ではないので、注意が必要です。また、ほかの利用者や地上デジタル放送などとの混信を回避するために、事前の運用調整が必要となります。
なお、運用開始までの詳細は、以下をご参照ください。
2-2. 技適マーク
日本国内で無線設備や端末機器が、法令で定められた技術基準に適合していることを示すマークです。

具体的には、電波法第38条の2に基づく『技術基準適合証明』や電気通信事業法第53条に基づく『技術基準適合認定』のいずれか、または両方を満たす機器に与えられます。
ワイヤレスマイクや無線LAN機器などの特定無線設備(小規模な無線局に使用するための無線設備)が、日本の電波法に基づく技術基準に適合していることを証明するものです。
技術基準の詳細や表示方法は、電波法に基づく総務省令『特定無線設備の技術基準適合証明等に関する規則』で規定されています。
電話機やモデムなどの公衆回線へ接続される端末機器が、日本の電気通信事業法令の技術基準に適合していることを認定するものです。
技術基準の詳細や表示方法は、電気通信事業法に基づく総務省令『端末機器の技術基準適合認定等に関する規則』で規定されています。
技適マークの下や近くに表示されている番号が「技適番号」です。これは、登録証明機関により技術基準への適合が確認された機器に付与される識別番号です。

技適番号の前に表示される記号は、認証制度の区分を示しています。
- R:電波法に基づく技術基準適合証明(無線設備)
- T:電気通信事業法に基づく技術基準適合認定(端末機器)
技適マークがない無線機器の日本国内での使用は電波法違反となる場合があり、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」の対象となります。
また、技適マークは日本国内でのみ有効であるため、海外ではその国の制度に従う必要があります。持ち込みができたとしても、その国で使用が許可されたということではありません。
なお、以下より技術基準適合証明等を受けた機器の情報を検索することができます。
総務省 電波利用ポータル|技術基準適合証明等を受けた機器の検索
2-3. スプリアス規格
無線機器から出る不要な電波(スプリアス)の強度を規制する技術基準です。

スプリアス規格に関連する用語は、電波法施行規則第2条第1項第63号〜第63号の5において定義されています。
六十三 「スプリアス発射」とは、必要周波数帯外における一又は二以上の周波数の電波の発射であつて、そのレベルを情報の伝送に影響を与えないで低減することができるものをいい、高調波発射、低調波発射、寄生発射及び相互変調積を含み、帯域外発射を含まないものとする。
六十三の二 「帯域外発射」とは、必要周波数帯に近接する周波数の電波の発射で情報の伝送のための変調の過程において生ずるものをいう。
六十三の三 「不要発射」とは、スプリアス発射及び帯域外発射をいう。
六十三の四 「スプリアス領域」とは、帯域外領域の外側のスプリアス発射が支配的な周波数帯をいう。
六十三の五 「帯域外領域」とは、必要周波数帯の外側の帯域外発射が支配的な周波数帯をいう。
また、スプリアス発射の許容値などの具体的な技術基準は、電波法に基づく総務省令『無線設備規則』別表第3号において定められています。
近年、携帯電話の帯域拡大や地上デジタル放送の開始、無線LANの普及などによって、周波数の“過密化”が懸念されるようになりました。旧基準では電波の干渉リスクが高くなったため、2005年の電波法に基づく総務省令『無線設備規則』の改正により、より厳格な『新スプリアス規格』が導入されました。
総務省 電波利用ポータル|無線設備のスプリアス発射の強度の許容値
新スプリアス規格
新スプリアス規格の導入により、無線機器から発射される不要な電波(スプリアス)の許容値が厳格化され、異なるシステム間の混信防止と電波の有効利用が図られます。
旧規格からの主な変更点は、以下の通りです。
- 不要な電波の低減(強度の制限)
無線機器が通信時に発する本来の目的外の電波(スプリアス)の許容値を、より厳しく制限します。 - 測定方法の変更
従来は「無変調」のみでの確認でしたが、新規格では「基本波の近傍は無変調、近傍の外側は実使用状態(変調)」で測定する方式に変更されました。 - 規制範囲の拡大
従来の高調波に加え、基本波の近傍も新たに規制対象となりました。
旧スプリアス規格
旧スプリアス規格の機器は、2022年12月以降は使用不可となる予定でした。しかし、新型コロナの影響などを踏まえた総務省告示により、現在は使用期限が「当分の間」延長されています(2026年4月現在)。ただし、他の無線局に有害な混信を与えない場合に限り使用可能です。
ただし、この措置は「無制限」ではありません。将来的に使用できなくなる可能性があるため、新規格への計画的な移行が推奨されます。
旧スプリアス規格の無線機器の見分け方は、本体の技適マーク付近に記載された「技術基準適合証明番号(Rで始まる技適番号)」を総務省の電波利用ポータルで検索するのが確実です。
なお、詳細は総務省の電波利用ホームページをご参照ください。
3. ワイヤレスマイクの主な周波数帯(日本)
ここからは、日本国内における以下のワイヤレスマイクの周波数帯について、整理していきます。
- 旧A帯【運用終了】
- TVホワイトスペース帯(WS帯)
- 特定ラジオマイク専用帯
- 1.2GHz帯
- B帯(800MHz帯)
- 1.9GHz帯(DECT方式)
- 2.4GHz帯(ISM帯)
| TVホワイトスペース帯 | 特定ラジオマイク専用帯 | 1.2GHz帯 | B帯 | 1.9GHz帯 | 2.4GHz帯 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 周波数帯域 | 470〜710MHz | 710〜714MHz | 1,240〜1,260MHz (1,252〜1,253MHzを除く) | 806〜810MHz | 1,893.5〜1,906.1MHz | 2,400〜2,483.5MHz |
| 無線局免許 | 必要 | 必要 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 運用調整 | 必要 | 必要 | 必要 | 不要 | 不要 | 不要 |
| 同時運用可能チャンネル数 | 1つのTVチャンネルにつき アナログ:6MHz幅で7波 デジタル:6MHz幅で10波 (チャンネルリストで運用) ※120波以上の実績あり | アナログ:3MHz幅で5波 デジタル:3MHz幅で8波 | 約20MHz幅で38波~ (機器や占有周波数帯幅、モードなどにより異なる) ※80波以上の実績あり | アナログ:30波内で6波 デジタル:30波内で10波 (実運用上はもっと少ない) | 8〜16波 (機器により異なる) | 6〜20波 (機器により異なる) |
| 通信可能距離 | アナログ:30〜60m デジタル:100m | 100m | 30〜50m | 30〜100m | 50m | 10〜30m |
| 音声遅延 (ms=ミリ秒) | アナログ:ほぼ0ms デジタル:2〜5ms | 3〜5ms | 3〜5ms | アナログ:ほぼ0ms デジタル:2〜 4ms | 3〜5ms | 2〜10ms |
| 周波数共用 | 地上デジタル放送 (運用調整で回避) | ー | FPU、公共レーダー (運用調整で回避) | ー | デジタルコードレス電話、ワイヤレスインカムなど | 無線LAN、Bluetooth、電子レンジなど |
| 混信リスク | ほぼない | ほぼない | ほぼない | 中 | 低い | 高い |
それぞれの周波数帯について、特徴と注意点を簡単に解説します。
3-1. 旧A帯【運用終了】
- 周波数
770〜806MHz
- 制度
特定ラジオマイク【免許制】
特定ラジオマイクの旧周波数帯域で、電波法改正に伴う周波数移行により、2019年3月31日に運用終了、現在は使用不可です。この帯域は、携帯電話(LTEなどの移動通信システム)へ転用されました。
旧A帯が使用していた特定ラジオマイクの周波数帯域は、TVホワイトスペース帯、特定ラジオマイク専用帯、1.2GHz帯に移行されました。
3-2. TVホワイトスペース帯(WS帯)
- 周波数
470〜710MHz
- 制度
特定ラジオマイク【免許制】
- 無線局免許
陸上移動局免許
- 運用調整
必要
旧A帯の移行先であり、特ラ機構への加盟と事前の運用調整が必要です。
地上波デジタル放送の空きチャンネル(13〜52ch)かつ家庭のテレビに混信を与えない周波数を使用します。
総務省が公開している『特定ラジオマイクのTVホワイトスペースチャンネルリスト』に掲載されている施設ごとに、決められた使用可能TVチャンネルの中から運用調整を行ったうえで使用します。なお、チャンネルリストに掲載がない施設では運用できません。
総務省 電波利用ポータル|特定ラジオマイクのTVホワイトスペースチャンネルリスト
1つのTVチャンネルで同時に運用可能な数は、アナログ方式で約7波、デジタル方式で約10波が目安です。複数のTVチャンネルを利用できる場合、適切な周波数配分で数十〜100波以上の同時運用の実績があります。
通信可能な距離は、アナログ方式で30~60m程度、デジタル方式では100m程度が目安です。
メリット
- 混信リスクが低い
- 多チャンネル同時運用に強い
- 長距離伝送に強い
- 遮蔽物に強く、電波が途切れにくい
デメリット
- 免許・運用調整が必須
- チャンネルリストに登録がない施設では運用不可
- 機材が高価、運用コストがかかる
3-3. 特定ラジオマイク専用帯
- 周波数
710〜714MHz
- 制度
特定ラジオマイク【免許制】
- 無線局免許
陸上移動局免許
- 運用調整
必要
旧A帯の移行先であり、特ラ機構への加盟と事前の運用調整が必要です。
特定ラジオマイク専用の周波数帯として割り当てられており、割り当て周波数の中から運用調整を行ったうえで使用します。TVホワイトスペースチャンネルリストに掲載のない場所であっても、日本全国どこでも運用することが可能です(陸上に限る)。
ただし、帯域幅が3MHzしかないため、使用できるマイクの数は限られます。同時に運用可能な数は、アナログ方式で5波程度、デジタル方式で8波程度が目安です。なお、通信可能な距離はWS帯と同様、高い到達性能を持ちます。
メリット
- 混信リスクが低い
- 日本全国どこでも運用可能
- 長距離伝送に強い
- 遮蔽物に強く、電波が途切れにくい
デメリット
- 免許・運用調整が必須
- 多チャンネル同時運用に制限あり
- 機材が高価、運用コストがかかる
3-4. 1.2GHz帯
- 周波数
1,240〜1,260MHz(1,252〜1,253MHzを除く)
- 制度
特定ラジオマイク【免許制】
- 無線局免許
陸上移動局免許
- 運用調整
必要
旧A帯の移行先であり、特ラ機構への加盟と事前の運用調整が必要です。
TVホワイトスペースチャンネルリストに掲載のない場所であっても、日本全国どこでも運用することが可能です(陸上に限る)。ただし、FPU(Field Pick-up Unit=テレビ放送用の無線中継伝送装置)や公共レーダーと周波数を共用しているため、割り当て周波数の中から運用調整を行ったうえで使用します。
同時に運用可能な数は30〜40波程度が目安ですが、高度な周波数設計やアンテナ分散運用を行った大規模案件では、80波以上の実績もあります。なお、電波の直進性が強く、ほかの特定ラジオマイクに比べて遮蔽物(人や壁)に弱いため、適切なアンテナ設計が必要になります。通信可能な距離は、30m〜50m程度が目安です。
メリット
- 混信リスクが低く、途切れにくい
- 日本全国どこでも運用可能
- 多チャンネル同時運用に強い
デメリット
- 免許・運用調整が必須
- 遮蔽物に比較的弱い
- 機材が高価、運用コストがかかる
3-5. B帯(800MHz帯)
- 周波数
806〜810MHz
- 制度
特定小電力無線局【免許不要】
- 無線局免許
不要
- 運用調整
不要
主にワイヤレスマイクや楽器用ワイヤレス機器で使用される通信方式で、免許不要で誰でも購入・使用が可能です。
チャンネル数は最大30波ありますが、帯域幅が4MHzと狭いため、すべて同時に運用できるわけではありません。同時に運用可能な数は、アナログ方式で6波程度、デジタル方式で10波程度が目安です。ただし、この周波数帯はいつでも・どこでも・誰でも使用できるため、混雑しがちです。ほかの利用者と周波数が重複しないよう、注意が必要です。
この周波数は遮蔽物を回り込んで電波が届きやすいため、途切れにくいのが特徴です。通信可能な距離は、見通しのいい屋内で30〜50m程度、屋外で100m程度が目安です。
なお、B帯は旧スプリアス規格で認証された機器が現在も多く流通しており、メーカー各社より案内が出ています。詳しくは、以下をご参照ください。
メリット
- 免許・運用調整が不要
- 日本全国どこでも運用可能
- 遮蔽物に強く、電波が途切れにくい
- 運用コストがかからない
デメリット
- 帯域が混雑する可能性がある
- 多チャンネル同時運用に制限あり
- 旧スプリアス規格の機器は、早期の移行が必要
3-6. 1.9GHz帯(DECT方式)
- 周波数
1,893.5〜1,906.1MHz
- 制度
デジタルコードレス電話の無線局【免許不要】
- 無線局免許
不要
- 運用調整
不要
コードレス電話やホームセキュリティ関連の商品、ワイヤレスインカムなどで使用される、デジタル通信方式です。免許不要で誰でも購入・使用が可能です。
目安として、同時に運用可能な数は、機器によって異なりますが8〜16波程度。通信可能な距離は、見通しのいい屋内で50m程度です。
なお、CSデジタル放送のアンテナ伝送路に混入し、特定のチャンネルで映像の乱れを引き起こす可能性があります。
メリット
- 免許・運用調整が不要
- 日本全国どこでも使用可能
- 混信リスクが比較的低い
- 運用コストがかからない
デメリット
- 機器が少ない
- CSデジタル放送と干渉する場合がある
3-7. 2.4GHz帯(ISM帯)
- 周波数
2,400〜2,483.5MHz
- 制度
小電力データ通信システム【免許不要】
- 無線局免許
不要
- 運用調整
不要
無線LANやBluetoothなどの無線機器、および電子レンジなどの産業・科学・医療機器と同じISM帯を利用するデジタル通信方式で、免許不要で誰でも購入・使用が可能です。
目安として、同時に運用可能な数は、機器によって異なりますが6〜20波程度。通信可能な距離は、10〜30m程度です。
また、音声の遅延が比較的大きく、機種による差も大きくなっています。
メリット
- 免許・運用調整が不要
- 日本全国どこでも使用可能
- 機器が安価、運用コストがかからない
デメリット
- 無線LANやBluetoothと干渉して混信する可能性がある
- 遮蔽物があると受信感度が急激に悪化する
- 通信可能距離が短い
- 遅延が比較的大きい
4. これだけは“絶対に気をつけたい”ポイント
4-1. 技適マークのない機器は絶対に使用しない
技適マークのない無線機器を日本国内で使用することは電波法違反となる場合があり、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」の対象となります。また、違法利用は罰則・罰金の対象になるだけではなく、公共性の高い通信の妨害など、社会生活に悪影響を及ぼすリスクがあります。
もし警察・消防の通信や電波監視システムなどの公共性の高い無線局に妨害を与えた場合、電波法に基づき「5年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金」の対象となります。これは重要無線通信妨害罪として非常に重い罰則であり、故意・重大な過失により無線設備の機能に障害を与えた場合に適用されます。
特に注意が必要なのが、海外製のワイヤレスマイクです。海外で購入もしくは海外から輸入した場合、技適マークがない可能性があります。機材の購入は日本国内で正規の販売ルートより、お求めください。
4-2. 特定ラジオマイクは必ず免許取得と運用調整を行う
特定ラジオマイク(WS帯、専用帯、1.2GHz帯)の運用に当たっては、無線局免許の取得はもちろんのこと、事前に運用調整が必要です。
特定ラジオマイクの無免許での運用は電波法違反となる場合があり、「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」の対象となります。また、事前の運用調整を行わないと、重大な混信事故のおそれがあります。未調整のまま運用を行い、ほかの無線局に混信を与える行為は悪質であり、法規に則って利用することが前提です。
なお、旧A帯の特定ラジオマイクは2019年4月以降、使用が禁止されています。
4-3. 旧スプリアス規格の機器は新規格へ早期に移行する
旧スプリアス規格の機器の使用期限は当面の間延長されていますが、無期限ではありません。また、新スプリアス規格への移行義務は継続しています。将来的に経過措置が終了した場合、旧規格の機器は無線局として運用することができなくなり、電波を発射して使用すると電波法違反となる可能性があります。
さらに、旧規格の機器は不要な電波の発射が大きく、混信トラブルの原因となる可能性があります。新スプリアス規格の対応機器への、早期の移行が推奨されます。
4-4. B帯は免許不要でも利用施設に必ず確認する
B帯のワイヤレスマイクを会場に持ち込む際は、免許不要であっても使用可能な周波数を施設に必ず確認してください。特に大きな施設では、複数の会場が近接していたり、施設内で個別に使用している周波数がある場合があります。
電波の混信による配信事故を防ぐという観点だけではなく、確認せずに運用すると施設の運営に支障をきたす可能性があります。利用当日にほかの利用者がいるかも、あわせて確認しておくといいでしょう。
5. 多チャンネル同時運用時の注意点
5-1. アナログとデジタルの違いを理解する
周波数とは直接関係しませんが、アナログとデジタルの違いは、音質・遅延・同時運用可能数・通信可能距離に影響します。
アナログ方式
音声信号をデータに変換することなく、そのまま伝送します。構造が単純なため遅延はほぼゼロに近く、モニター用途や演奏用途では違和感が少ないのが特長です。
一方で、電波状態が悪化したり通信距離が伸びるとノイズが徐々に増加します。また、相互変調の影響を受けやすいため、多チャンネル同時運用時はチャンネル間隔を広く確保する必要があり、デジタル方式に比べて同時運用可能数は少なくなります。
デジタル方式
音声信号を一度データに変換して伝送します。ビットレートやコーデック設計により機種ごとに差がありますが、ダイナミックレンジが広く、ノイズが混入しにくく安定した音質を維持できるのが特徴です。
信号を圧縮・暗号化して伝送するため、相互変調の影響を受けにくく、アナログ方式よりも同時運用可能数が多く、実質的な通信可能距離が長くなります。
ただし、デジタル変換に伴う処理のため、数ms(ミリ秒)程度の遅延が発生します。
| アナログ | デジタル | |
|---|---|---|
| 音質 | ノイズの影響あり | 安定 |
| 遅延 | ほぼゼロ | 数ms |
| 混信時 | 徐々に悪化 | 突然途切れる |
| 同時運用可能数 | 少なめ | 多め |
| 通信可能距離 | 短め(徐々に劣化) | 長め(限界を超えると急に途切れる) |
アナログは連続的に劣化する方式、デジタルは一定品質を保つが限界で急変する方式、という性質の違いが最も重要です。
5-2. 同時運用可能数は機種によって異なる
同一周波数帯での同時運用可能数は、機種の設計(送信出力や周波数グループ設計など)によって異なる場合があります。出力を抑えることで同時運用可能数を増やせる機種がある一方で、コストを抑えるために通常よりも少ない機種もあります。購入・使用時には確認が必要です。
また、同一周波数帯で異なる機種を混在させる場合、同時使用数は少ない方に合わせたチャンネル設定を優先するべきです。仮に同時6波使える機種と同時4波使える機種を併用する場合、4波までに制限して運用することが推奨されます。
同時運用数を増やす方法
- 異なる周波数帯(例:B帯+2.4GHz帯)を併用する
- 有線マイクを併用する
5-3. 周波数のチャンネル間隔を十分に空ける
特定ラジオマイク(WS帯、専用帯、1.2GHz帯)とB帯には、チャンネル間の推奨空き間隔があります。
複数のワイヤレスマイクを同時に運用すると、送信機同士の電波が相互に影響し合い、設定していない周波数に妨害波が発生する「相互変調」が起こる場合があります。そのため、単純に空きチャンネルを選ぶだけでなく、メーカーが提示する推奨チャンネルプランに従って運用することが重要です。
5-4. 送信機と受信機の位置に注意
送信機
送信機同士が近すぎると相互変調が発生しやすくなり、電波の混信やノイズの原因になります。そのため、物理的に距離を確保する必要があります。送信機同士は50cm以上離すようにしましょう。
また、受信アンテナとは5m以上離すようにしてください。近すぎると電波が強すぎて過入力となり、混信や音割れ、音切れなどの不具合が発生する可能性があります。
受信機/受信アンテナ
受信機同士も50cm以上離して設置することが推奨されます。また、受信アンテナはなるべく高さを確保(1.5m以上)して、見通しがいい位置に設置することが重要です。人体は電波を吸収するため、観客や演者に遮られると受信レベルが低下します。
さらに、金属構造物から離すことも重要です。金属は電波を反射・吸収するため、数十cm以上離すのが基本です。
5-5. ダイバーシティ方式の受信機を使用する
ワイヤレスマイクの電波は、壁・床・天井・人体などで反射しながら伝搬します。その結果、特定の位置で電波が打ち消し合い、受信レベルが極端に低下する「デッドポイント」が発生します。
このデッドポイントを回避するために用いられるのが、「ダイバーシティ方式」です。ダイバーシティ方式では、複数のアンテナや受信回路を備え、それぞれで受信した信号の状態を比較し、より良好な信号へ自動的に切り替えます。
これにより、ある位置で一方の受信経路の信号が弱くなっても、もう一方の受信経路で補完できるため、音切れの発生確率を大きく低減できます。
以下が主な受信方式です。
アンテナ1本+受信回路1系統の、最も基本的な方式です。
- 構造が簡単
- 低コスト
- デッドポイントの影響を受けやすい
小規模環境や近距離用途向けであり、多チャンネル同時運用には適しません。
アンテナを2本搭載し、受信状態のいい側へ自動的に切り替える方式です。
- デッドポイント発生時の安定性が向上
- 受信回路は1系統の場合が多い
- 切替タイミングによって瞬間的な変動が生じる場合がある
中級クラスの機種に多く採用されています。
アンテナ2本+受信回路2系統を搭載し、それぞれが独立して受信した信号を常時監視し、より状態のいい信号を自動的に選択(または合成)する方式です。
- デッドポイント耐性が高い
- 受信の安定性が大幅に向上する
- 業務用途で標準的に採用されている
- 多チャンネル同時運用時に信頼性が高い
現在の業務用ワイヤレスマイクの主流方式です。
なお、ダイバーシティ方式はデッドポイント対策として有効ですが、相互変調や同一周波数の混信そのものを防ぐものではありません。あくまで「受信品質を安定させるための冗長化技術」であることを理解しておく必要があります。
5-6. B帯と2.4GHz帯は過信しない
B帯
免許不要で日本全国どこでも運用可能であるため、いつ・どこで・誰が使用しているのかを把握するのは困難です。そのため、周辺にほかの利用者がいた場合、B帯同士の機器で電波干渉による混信が発生する可能性があります。
機種によっては、自動チャンネルスキャンという機能がついています。これは周囲の電波状況を自動的に検知し、混信の少ない最適なチャンネルを、瞬時に検索・設定する機能です。ただし、スキャンした後に、他のマイクや機器が同じ周波数を使い始めるなど、周囲の電波環境の変化によっては混信を防げない場合があります。特にB帯は壁などの遮蔽物に強いため、隣の部屋で使われているマイクの電波も拾ってしまい、干渉を引き起こすことがあります。
また、アナログ方式では適切なチャンネル設計で最大6波程度まで同時に運用できますが、実際は余裕を持って4波までに抑えるのが推奨されます。
2.4GHz帯
無線LANやBluetoothと同じ帯域を使用するため、利用環境によっては混信のリスクが非常に高い周波数帯です。特に多くの人が出入りする会場では、スマートフォンなどとの電波の干渉によって、急に通信が途切れる可能性が高まります。
6. 目的別|失敗しない周波数帯の選び方(一覧表)
最後に、目的別の周波数帯の選び方をまとめました。ワイヤレスマイクを選ぶ際の参考にしてください。
① 同時使用本数で選ぶ
| 同時使用本数 | 想定規模 | 推奨帯域 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 1~4本 | 小規模セミナー・配信 | B帯 1.9GHz帯 2.4GHz帯 | 都市部では混信リスクあり |
| 5~10本 | 中規模イベント | 専用帯 1.2GHz帯 B帯+1.9GHz/2.4GHz帯 | 余裕を持つなら免許制帯域推奨 |
| 10本以上 | 大規模イベント(ホール・式典・ライブなど) | WS帯 1.2GHz帯 | 事前の運用調整が必須 |
② 会場タイプで選ぶ
| 会場種別 | 主な用途 | 推奨帯域 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 固定ホール(中〜大規模) | 舞台・演劇・コンサート | WS帯 専用帯 B帯 | 多チャンネル・高安定・長距離 |
| 競技場・アリーナ | スポーツ・大型催事 | WS帯 専用帯 B帯 | 長距離・多チャンネル |
| 全国持ち回り公演 | ツアー | B帯 1.2GHz帯 | 周波数が確保しやすい |
| 商業施設 | 催事・販促 | B帯 1.9GHz帯 | Wi-Fi干渉を回避しやすい |
| 展示会場 | ブース・セミナー | 1.9GHz帯 | 混信の回避に強い |
| 会議室(小〜中規模) | 会議・講演 | B帯 1.9GHz帯 2.4GHz帯 | 設置が簡単 |
| 学校・公共施設 | 式典・講堂 | B帯 1.9GHz帯 | 安定性重視 |
| ライブハウス | 音楽ライブ | B帯 | 低遅延・安定 |
| 配信・収録スタジオ | インターネット番組 | WS帯 専用帯 B帯 | 低遅延・高信頼 |
| 屋外イベント(仮設) | 地域催事 | 1.2GHz帯 B帯 | 直線距離対応 |
③ リスク許容度で選ぶ
| 優先事項 | 推奨帯域 | 特徴 |
|---|---|---|
| コスト重視 | B帯 1.9GHz帯 2.4GHz帯 | 導入しやすいが混信リスクあり |
| 安定性重視 | WS帯 専用帯 1.2GHz帯 | 手間とコストはかかるが混信が少ない |
まとめ|適切な“周波数設計”が安定配信のカギ
ワイヤレスマイクの運用にあたっては、法令を遵守することと適切な周波数帯の選択が不可欠です。特に多チャンネル同時運用には、注意するべきポイントがいくつもあるため、知識や技術、経験がないと重大な配信事故の原因になりかねません。
価格やメーカーよりも、「どの周波数帯でどう設計するか」が安定した配信のカギになります。ライブ配信においてワイヤレスマイクを運用する上で、ぜひ参考にしてください。
なお、特定ラジオマイクの周波数逼迫対策として900MHz帯拡充の検討が進められています。将来的に選択肢が増える可能性があるため、こちらの動向にも注目です。
900MHz帯を使用する新たな無線利用の提案『特定ラジオマイクの周波数逼迫対策のための周波数拡充及び高度利用』
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